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個人的幻覚の覚書





           一

 トン とカウンターに牛丼のおかれる。
 牛丼並と午前二時、店員の顔にすけてみえる面倒な気配と脳みその焼けるような疲労。店内をみたす音は小さくながれている随分むかしの流行歌とキッチンを掃除する物音、カチカチとデッキブラシが床をこする音。私の隣の席に河童(*)がすわった。
 河童は生臭いにおいを発している。河童は店員をよぶと「きゅうり」と注文した。
 店員はキッチンに戻ると、皿にきゅうりをのせて持ってきた。私は手元のメニューから一覧にきゅうりのないことを再確認した。この牛丼のチェーン店には「きゅうり」という裏メニューがあるようだ。
 ぽり ぽり ぽり ぽり ぽり と河童はメトロノームのように正確にきゅうりをかじった。私は牛丼を食べおえた。
「おあいそ」
 店員がくる、支払いをすませる。
「ありがとうございました!」
 やけっぱちふうの威勢のある声を背にして店をでる、河童のカップルが入れ違いに入店していった。
 きゅうりがメニューにある牛丼屋もおかしいが河童が闊歩していることもおかしい。家にむかい歩いていると、道路工事をする河童がいた、駅前のみちで河童が泥酔していた、露出のある服をきた引きこみのホステスの河童があおい肌をみせて、あおい胸元をみせて、私にあきなみを送る。
 まるで人間が河童に取ってかえられたきがし、家に帰って鏡に自分の顔をうつすと河童がいた。その見なれた顔はまちがいなく私だ。
 私が河童であって何の不都合のあろうか。と考えて、咄嗟に両足の付けねに手をあてた。安堵した。
 フ……と目がさめた。机のうえに突っ伏していた、顔をあげると目の前のデスクの上司がにやにや笑っていた。上司は頭のてっぺんがはげて、唇のさきの尖った河童顔をしている。
「ガムをあげよう」
 といわれて、ブラックブラックガムをもらった。

           二

 蚊取り線香の上空を旋回していた蚊が墜落した。命の儚さに思いを馳せていると、裸の妊婦が窓から這入ってきて、私の目の前でお産をした。生まれたのは両手両足のない醜い赤んぼで、悲しいことに産声をあげた。出産した女はよろよろしながら、
「お湯はありませぬか」
 と産湯をもとめたので、私はカップ麺をつるくために沸かしていた薬缶を手にとり、
「消毒してあげよう」
 と、かの女の中に湯を注いだ。三分まつと、ふやけた赤んぼうが息をわすれて、床のうえで床に同化していた。木目模様に赤んぼうが飲まれると、苦痛にわめいていたかの女は幽鬼のような眼差しで私をみやり、呪いのことばを吐いた。
「お湯はありませぬか」
 かの女は火傷した女性器をかばうようにして私にすがる。仕方がないので、私は火のついた蚊取り線香を蛇口にちかづけ、水をかけた。煙がきえると、四畳と台所だけの狭い部屋に私だけがおり、赤んぼうの亡骸はおろか、それをうんだ女の姿もない。
 蚊取り線香に幻覚剤がねりこまれていたのだろう。
 昨日の河童の夢もそれで決着がつけられる、あれは蚊取り線香のみせた夢なのだ。時計をみる、深夜の一時をまわり、小腹のすいたころだ。私は財布を手にすると、部屋をでた。
 深夜の町は死んだように静かだ。行きつけの牛丼屋は流通センターの端にあり、深夜になると客足が途絶える。
 軒先の誘蛾灯の紫の光にやかれて、羽虫が地面に死骸をひろげる。命の尊さに思いをはせながら、入店すると、レジのところに義捐金の募金箱があり、私は財布を重たくしている小銭をありったけ中にいれた。
 カウンターにすわると、茶がおかれる。見あげると、河童だった。
 あおの肌は半袖のさきから惜しげなく披露されていた。私は、「きゅうり」といった。すると河童は、
「そんなメニューはありません」と返事した。
「牛丼」
 と私が頬を赤くしながら言い直すと、河童はキッチンに走ってもどり、走って帰ってきた。
 トン とカウンターに牛丼のおかれる。

           三

 寝不足でねむい。印刷した書類がてのうえですべり床にちらばり、それを拾うと、それがくしゃくしゃになりながら笑った。幻覚と白昼夢とのどちらが正しいのだろう。いまだに書類は河童、河童と笑いつづける。
 こめかみをおさえて、席にもどる。
 目の前のデスクの河童に似た上司は、パソコンのディスプレイを凝視していた。
「か……。先生」
 とよびかけると、視線だけを私にむけた。
「疲れました」
「チョコをあげよう」
 と上司は包み紙にくるまれたチョコの一個を私になげてよこした。
「河童ですか」
 上司は仕事に集中していた。
 定時まで一時間、時計が逆回転しないかぎり。仕事は捗らない。最近、眠れない。夜中に牛丼を食べにいくのがいけないのかもしれない。河童がいるようなきがする。目の前の上司が余りに河童に似ているから夢にまでみる。河童がいるようなきがする。
 書類の整理をした。
 来月、更新される契約の見積書をつくりストックを増やす。
 定時になった。机のうえを片づけてオフィスを出た。

           四

 部屋に戻ると、部屋のなかに河童がいて、天井から巧みに縄をたらして首を吊っていた。
 その河童の自殺死体は本当に河童なのか。
 肌の色はあおだが、それは染められたものではないのか。
 鳥と猿とをまぜたような顔は特殊メイクではないのか。
 そもそもこれは現実か。
 窓辺におかれた蚊取り線香は幻覚剤を垂流してはいない。
 ぶらぁん、ぶらぁんと河童の首吊り死体は振り子運動をくりかえす。その動作が催淫的だとおもった。死体がある、家にはいられない、行く場所がない。振り子の運動がやがてとまる。河童の体臭が部屋をみたしていた、臭いを消すために蚊取り線香に火をつける。窓から二度目の妊婦が這入ってきてラマーズ法で呼吸する。
 インターネットで調べた妖怪が現代にいない理由を思いだした。自然が驚異ではなく、野生の動物の気配が遠ざかったから、山の化身である妖怪は出没しない。かわりに未来妖怪があらわれた。それは携帯電話であったり、インターネットであったり、パソコンの形をしている。しかし、私の部屋で河童が自殺していた、得たいのしれない妊婦が出産しては死産になげいていやらしい。
 静寂の空間に携帯電話のバイブレーションがひびく。ディスプレイに表示された母親の名前をみると、電源ごと携帯電話を切った。耳鳴りのする沈黙のあいだ、目の前をゆらりゆらりと電気照明のスイッチの紐がゆれていた。河童の姿はなかった、妊婦は消えている。
 私は部屋をとびだし、流通センターの端にある牛丼屋にいった。
 夕食時で賑わっているのに河童は一匹もいなかった。時間がわるいのだ、河童の住んでいる時間ではない、夕方の六時から夜の十時までは河童は自殺している時間だ。
 頭がひどく痛み、この頭痛の原因は河童にちがいなかった。
 私は旅にでようと決意した。河童のいない世界にいかなければいけない、私と河童との関係性を否定するためにも! 頭痛をなおすためにも。
 コンビニにいきATMで残高照会すると残金はマイナスだった。無銭旅行になることに気がめいると、私のそばに河童があらわれ、顔をゆがめて笑った。

           註

*河童――河童(かっぱ)は、日本の妖怪・伝説上の動物、または未確認動物。標準和名の「かっぱ」は、「かわ(川)」に「わらは(童)」の変化形「わっぱ」が複合した「かわわっぱ」が変化したもの。河太郎(かわたろう)とも言う。ほぼ日本全国で伝承され、その呼び名や形状も各地方によって異なる。類縁種にセコなどがいる。(ウィキペデイア日本語版より)

佃煮

 降りだした雨のやまず、外にでるのも億劫で日の暮れるまで本を読むなりして過ごした。暮れても雨はやまない。
 空腹に耐えられなくなった頃、来客あり。相模の田舎から加村くん。かの女は手土産に少女の佃煮を持ってきた。米を炊いて、早速加村くんと食す。
 相模で知っている加村くんとくらべ、さすがに年頃となり美しくなっていた。
 食卓にて。
「この少女はどこの産かね」
「相模の産」
「なるほど淫猥だ」
 佃煮の味は噛むほどに舌を痺れさせ、空腹の胃には刺激が強すぎた。酒をのんだように酩酊し、加村くんが白米にのせた少女の乳首を噛みしめる姿は、物静かな居ずまいと合わさり、貞淑な処女を連想させる。
「加村くん」
「なにか」
 と首をかしげる。かの女の肩に手をのばして、服のなかに手をさしいれる。やわらかな肌、呼吸にあわせる乳房のわずかな脹らみが上下する。またたくまに加村くんは頬を赤くしたが拒絶の仕草はない。
「この佃煮」
 と加村くんは床に仰向けになり、天井の隅を見すえながら告白した。
「わたしの友達なんです」
「そうか、うまかったよ」
 加村くんの股をひらかせると、そこには閉じた割れ目があり、指をさしいれて具合をみると、絡みついてくる肉の動きの痙攣するような不随意、穴を閉じようとする力ばかりが勝り、真面目な加村くんらしい。
 窓の外は暗い、電灯の灯に照らされてガラス窓は鏡になり、服の乱れた少女を組みしいた私を映す。加村くんの目は私をみていない。加村くんはガラスに映った自分の淫らな姿に赤面すると、片手をのばしてカーテンを引いた。
 加村くんの女唇のまをさすっているうち、かの女は小さく声をもらした。準備が整ったのだろうと、服を解いて挊をとりだして、かの女の口に近づける。加村くんは舌をのばして、私のものをなめた。かすかに全身をふるわせながら、懸命に加村くんは私の要求にこたえる。口のなかにいれると、吐息がかけられ、舌と喉の肉によって愛撫される。ときおり加村くんの歯があたり、にぶい痛みがする。勃起して、ついにかの女の喉の奥をつく具合になると、口から引きぬいて、加村くんの中におさめた。
 加村くんはじっと私の股間をみていて、それがゆっくりと自分のなかに押しこまれていくのに合わせて腰の位置をずらした。先端が中にはいると、加村くんは目をほそめて、亀頭を押しこむと指を握りしめた。うっすらと汗をうかべながら、加村くんは耐えている。残りをおしこむと、からんだ肉を解きほぐしていく感触がし、完全におさめると加村くんは歯をくいしばっていた。
 かの女は身動ぎできずにいて、私がわずかに身体をうごかすだけで表情をゆがめた。
「いやか」
「してください」
 間髪いれずに加村くんは答えると、私に抱きついてきて唇を重ねた。痛みにたえるような表情は、繋がったまま時間を過ごしていくうちに和らいでいった。それでもかの女から積極的になることはついになく、声すら飲みこんで必死に終わるのを待っているようにみえた。あまり動かない加村くんのそこの動きも、中に埒をあけた瞬間だけは驚いたように蠢動して、腎水を残さず搾りとった。
 私が加村くんから挊をひきぬくと、かの女はまぶたを閉じて寝入ったように休んだ。

 翌日、加村くんは私より先に起きて朝餉の準備などをする。帰らないのか、と聞くと加村くんは黙って私を見つめる。仕方がないので加村くんに小遣いをやった。加村くんは無表情でそれを受け取り、朝をともにして、昼になる前に私の家を辞した。
 その後の連絡はない。私の予想では、どこかで佃煮になり、だれかの舌をよろこばせている。
プロフィール

sadistictorism

使用者:sadistictorism
 
 肥大化した自意識で糖尿病にかかっちまえ!

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