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朝焼けでも一緒に


 少し開けた窓から時折、熱気をふくんだ風が入りこんでくる。
 扇風機がモーターを発熱させながら部屋の空気をかき混ぜているけれど、ぜんぜん涼しくない。時計の針は午前三時をさしている。そろそろ寝ようかという頃合、小腹もすいている頃合。読みかけの文庫本を机のうえに投げだして、ちょっと思案した。部屋の中の熱気と空調の効いたコンビニとか、カロリーとか。首筋をつたう汗を手のひらで拭った。
「行くか」
 とわざとらしく声にだして、立ちあがる。
 ジーパンをはいて、シャツを着て、財布を手にして。鏡に全身を映して、変なところがないか確認して、ちょっとだけ髪を梳いた。
 家の外にでる。オートロックのあるマンションの五階に私の部屋はある。学生ばかりが住んでいる町のなかにあって、似たような建物のなかに擬態しているみたいに建っている。息苦しいエレベータに乗って、ロビーに向かう。
 コンビニまでは歩いて五分も掛からない。
 ちょっとの距離でも、ひと気のない道を歩くのは心細い。街灯に目をやりながら、曇った空をみる。満月だ。ちらちらと見える星をしたがえて堂々とかがやいている。
 大学のために上京して、やっぱり驚いたのは夜の空の色だ。テレビのドラマだとか、友達とだべっているときとかで、東京の空は明るいと聞いてたけど、実際に見てみると実家で見る空との違いがありすぎて、本当に同じものなのかと思ってしまう。
 一人暮らしを始めて一年が過ぎた。それでも空を見て思うことは一向に変わらない。だから、たぶん何年経っても同じ感想を持つんだろう。
 そんなことを考えているうち、コンビニの明かりが見えてきた。
 寂しい道もそれで終わり、昼間のように明るいコンビニ前の駐車場に足をふみいれた。飲み会帰りっぽい若い男女がいる他に客はなく、さっさと買い物を済ませようと店内にはいる。店員が暇そうにレジの前に立っている。
 まず、カップ麺の棚をみた。気をひくものはない。背後のお菓子の棚をみる。バームクーヘンが美味しそうに見えたけれど、この時間に甘いもの、というのも気が引けた。じゃあ、お弁当? と思うけれど、ご飯を食べたら間違いなく太る。
 ぐるぐると同じところを、鎖につながれた犬みたいにまわっていると、ぽん、と肩をたたかれた。
「夜食か」
 ふりかえると、先輩が立っていた。相変わらずの坊主頭に髭を生やして、恰幅のいい体型で、カーゴパンツにTシャツの姿は大学生のように見えるけれど、堅気じゃない印象も同時に。
「先輩も?」
「さっき目が覚めたから、朝飯を買いにきたところだ」
「私、これから寝るところですよ」
「昼夜逆転か」
 先輩はだめなやつだ、というように私のことを見つめる。
「先輩も、この時間に起きたのはべつに早起きだからじゃないでしょう」
「まあな、この時間のほうが人が少なくて回線が軽いからな」
「ちゃんとサークルにも顔をだしてくださいよ」
「気がむいたらな」
 と先輩は明後日のほうを見てから、
「折角だから、飯おごるよ」
「なにかの埋合せですか」
「お前は、なんていうか常識に凝り固まったような返事をするな」
「そうでもないですよ」
「ただの好意だ、すなおに受け取れよ」
 私はうなずいて、先輩のあとについてコンビニをでた。
「蕎麦でいいか。この時間だと駅前の蕎麦屋ぐらいしかあいてない」
「いいですよ何でも、先輩のおごりなら」
 コンビニから駅までの距離は、私の家からコンビニまでの距離と同じぐらいある。ただ、大通りに沿って歩くことになるから道は広いし、たまに車も通る。先輩とどうでもいいような話をしながら歩いていくと、あっという間についてしまう距離だ。
 だんだん白くなる空と先輩の横顔を見ながら、できるだけこの時間が長く続いてほしい、と願う。帰り道は一人だから、先輩は駅を挟んで私とは反対側に住んでいるから、先輩と会ったのは二週間ぶりで、会話をしたのもそれぐらい。携帯のアドレスは知っているし、インターネット越しにチャットできないこともないけれど、何だか怖くて私から話かけることはできていない。
 蕎麦をいっしょに食べる……
 と私は思いながら、少し前をあるく先輩の横に並んだ。先輩はちらりと私のことを見て、黙って足をさきに進めた。

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使用者:sadistictorism
 
 肥大化した自意識で糖尿病にかかっちまえ!

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