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告別式




 同学年の男子の一人が、交通事故で亡くなった。
 その告別式が今日あって、私たちは参列した。その間、私は頭の芯がじわりと熱くなっていくのを感じた。特に、その亡くなった男子と親しかったわけではない。それでも心が落ちつかない。話したことなんて数えるほどだ。式場で、同じ制服を着た私たちは塊まって座っていた。死について、私は始めて向き合ったのかもしれない。
 式が終わり、私たちは来たのと同じように塊まって帰る。仲のいいグループ同士で、式場から駅まで歩いて帰った。距離はそれなりにある。初夏のことで、少し歩くだけで汗が出てきた。
 黙って歩いている。おしゃべりをするのが、とてもいけないことのような気がした。不謹慎という言葉の意味が分かった気がする。それでも暑かった。暑いのは、私がどんな気持ちであろうと変らない。汗がでるのも変らない。じゃあ、と、思ったところで、同じように黙って歩いていた一人が、
「マック寄ろう」
 と言う。目の前に赤い看板がある。
「暑いし、喉乾いたし、冷たいの飲みたい」
 私は我がままな奴だ、と、思った。けれど、他の人たちも彼の提案に賛成で、その一言で緊張の糸を切ったようになり、急におしゃべりが始まった。
 レジに並びながらしゃべり、席に座ってジュースを飲みながらしゃべった。おしゃべりに熱狂していくのを横目に、私は自分用に買った爽健美茶を見つめていた。
何となく買ったそれに口をつける気が起こらない。もう紙のコップには水滴がついている。中には冷たい液体が入っている。芯まで熱くなった身体には堪らないだろう。
 急に肩を叩かれて、ふと顔をあげると、
「どうしたよ」
 と心配する声と顔がある。私は、何でもない、と答えて、場を濁すために自分の爽健美茶を手にして、口に運んだ。吸った。冷たい液体が舌のうえを滑って、喉をさがっていく。内蔵に冷たい感触が広がっていった。

ふたり




 キッチンの換気扇のところで、彼女は、たばこをくわえていた。
「こんな夜中に何してんの?」
「たばこ」
「そんなの見れば分かるよ」
 と私は眠たい目をこすりながら、いつのまにかベッドから消えたパートナーを見つめた。すらり、と、高い背に少年のような顔つき。薄暗がりで見ると、ほんとうに同性には見えない。そうであるほどに私は、どうして彼女と付合っているのかを見失う。むろん、好きで、恋して、愛しているからなのだが、その言葉に大きな意味はない。言葉は言葉で、実感がなければ、ただの音と記号に過ぎないわけで。
 そうこうしているうちに彼女はたばこを吸い終わり、換気扇を止めた。モータの音が消えると、しん、とした夜の静かさがうるさくなる。
 彼女に近づき、私は唇を重ねる。たばこの臭いがする、やわらかな唇のあいだを縫って、舌をいれると、彼女も答えるように舌を絡める。たばこの辛い味がした。舌のからみあう音が、ねちゃり、ねちゃり、と卑猥にひびいて、彼女の背にまわした手が、そろりと彼女の肌を探して、服の隙間から中に入っていく。きめの細かい肌の感触を手のひらに味わいながら、片手を彼女の下半身に伸ばしていく。すると、彼女は私から口をはなして、私の目を見つめた。透明な、色素がうすくて茶色に見える瞳孔が、じっとじっと、私を見ている。
 私は彼女から一歩はなれた。彼女はキッチンの流し台に手をのばし、そこに置いたままのたばこのボックスから一本とりだすと、躊躇なく口にくわえた。ふたたび換気扇のスイッチを押して、たばこに火をつけた。暗闇にぱったとついた小さなライターの火とたばこの先。じわり、と、浮かびあがる紫煙を彼女は見つめる。
「なんで、吸うのよ」
「きらいだっけ?」
「私は非喫煙者なんです」
「そうだね」といって、彼女はまだぜんぜん吸っていないたばこを灰皿に押しつけた。
 よろしい、と私はいった。なんというかキスした直後にたばこを吸われるのは、むかつくのだ。

朝と夜とに挟まれた曖昧

 朝。
 そして、夜。時間はただ過ぎていく。空虚だ、と、つぶやいたところで何も変わりはしない。目をさます、することがないから目を閉じる。夢なのか空想なのか分からない。知性は簡単に混濁する。夢なのか空想なのか分からないけれど、ぼくは狭い道を歩いている。
 蒸し暑い日で、立ち止まると汗が額にういた。下町の迷路のような道に看板がでていて、それは黒板をイーゼルに立てた手書きの看板で、喫茶店の看板で、手書きでメニューが書いてある。今日のケーキは、いちごのタルトだ。ビニルハウスで栽培されている大麻をぼくはミルクセーキに浸しながら食べている。
「麻薬がいいの?」
 と背後に声がして、ふり返るとそこには老婆がいる。しわくちゃの顔で、ボロになった服を羽織っている。服の隙間から見える肌は赤茶けていた。その老婆が、
「麻薬がいいの?」
 と甘ったるい声で、ぼくに聞いてくる。
「紅茶より好きだ」
「試したこともないくせに!」
 老婆は笑いながら、ぼくの傍によってクロスロードの悪魔の話をする。もし、お前が生きていきたいのなら悪魔と取引するしかない、と、老婆はぼくに強くすすめる。うるさくなって、
「悪魔に会わせてくれたら考えますよ」
「目をさましたら、悪魔がチャイムを鳴らす」
 老婆はにやり、とそういって煙のように消えた。確かなものは足で感じる大地だけで、これはきっと夢で、夢のなかの地面はマシュマロみたいで、イーゼルにかけられた黒板に書かれたいちごのタルトの文字はにじみだしている。雨がふる、雨がやむ。くりかえし、くりかえし、くりかえし。空虚だ、と、ぼくはつぶやいて、目を覚ました。
 インターホンが鳴った。
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sadistictorism

使用者:sadistictorism
 
 肥大化した自意識で糖尿病にかかっちまえ!

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