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メイドと煙草

 
 
 メイドさんのエプロンにはわずかに煙草のにおいが染みていて、膝枕をしてもらうたびに父さんのことを思いだした。
 今日もそうだ。
 休日で、予定のない日。お昼ごはんも片づくと、なんだか手持ち無沙汰で、ソファに座ってテレビを見ていた。同じように仕事が終わってすることのなくなったメイドさんが、ぼくの横にきた。なんとなくその膝のうえにぼくは頭をのせた。かすかに煙草のにおいがする。メイドさんは何もいわず、低い声で子守唄のようなメロディを口ずさむ。さすがにそんな歳じゃないんだけど、と、思うけれど、だんだん眠くなってきて、細かいことはどうでもよくなる。
 うとうとしだして、夢なのか現実なのか分からなくなってくる。父さんの亡くなった日、それとメイドさんが家に来た日とが煙草のにおいでつながっていく。胸のざわめく思い出は、眠気のおもたさにぼやけて、遠くに消えていく。ぼくはいつの間にか眠っていた。

 目をさますと、夕暮れどきだった。ぼくはソファに横になっていた。まだ眠気がさらず、頭が重たい。庭に目をやると、メイドさんが外にでていて、煙草を吸っていた。なれた仕草で、一本を吸い終えると、携帯の灰皿にそれを仕舞う。その様子をじっと見ていた。メイドさんは一服を終えると、こちらにふり返った。目があったような、合わないような微妙の間があってから、ぼくはもう一度目を閉じた。メイドさんが、窓をあけて家のなかにあがる気配がする。足音が近づいてきて、遠ざかっていく。
 近くを通ったとき、かすかにだけれど煙草のにおいがした。父さんのことも思いだしたけれど、それよりも煙草を吸って、夕空を見上げていたメイドさんの姿が、強く記憶に刻まれるのを感じた。

ちょうのへんたい

 体温でぬるくなった便所のタイルを一匹の芋虫が這っている。それは壁を登り、ぼくの視線と同じぐらいの高さになると、糸を吐いた。ぼくの見ているあいだに繭をつくる。
 便器に座ったままの姿勢でぼくは繭が孵るのを待つ。そうでなければ理香が遠からぬうちにこれを発見し、悲鳴をあげて、ぼくにくっついてきて、
「どうにかして!」
 とヒステリックに言うだろう。ぼくは理香の命令に逆らえないから、この繭をトイレットペーパーで摘んで、便器に流すことになる。そうならない為には、ダラダラしているヒマはない。さっさと変態して、うつくしい蝶になってしまえ。理香も可憐なものを嫌がる心は持ち合わせていないだろうから。
 はやくはやくはやく、と念じていると、便所のドアが叩かれて、理香の声がする。
「まだ?」
「もう少し」
「えー。もう十分ぐらい経つよ?」
「あと少し」
「……あ、さてはよからぬことしてる?」
 下世話で、にやついた声で理香は言うと、ほんの少しだけ沈黙して、
「もう、私がいるでしょ?」
 と。
 ざわりと背筋を毛虫が這ったような気配がして、思わず便器から立ちあがった。目の前にあった繭は霧散した。
 一瞬のためらいを消えた繭に残し、ズボンを引きあげた。
 便座のレバーを押した。
 ごう、という音をたてながら便器は洗われ、ぼくはドアをあける。へへん、と、勝ち誇った顔の理香がいて、唇を押しつけてきた。ぼくは目を閉じて、頭のなかに蝶を思いえがいた。舌をするりと伸ばして、花芯から蜜を吸う。理香の舌は、ぼくの唇のなかに入ってくると、舌に絡まった。よだれの味は、期待に反して甘くなかった。頭のなかの蝶が、枯れ葉のように散った。
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sadistictorism

使用者:sadistictorism
 
 肥大化した自意識で糖尿病にかかっちまえ!

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