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 冷子の肚には人の顔があり、それは生きていた。呼吸をするし涎も吐いて、夏場はよく蒸れた。冷子とは長い付き合いであった。
 ある夏の日、外回りで疲れて冷子は家にもどり、シャワーを浴びた。すると、肚の顔が喉のかれた男の声で、
「臭い」
 とつぶやいた。滅多にしゃべることがなかったのが、その一言を皮切りにして、お前のまんこは臭いんだよ、陰毛は剃れよ、うざいんだよ、顎にあたってくすぐったいんだよ……、とたたみかけるように声をあげた。
――冷子はカミソリを手にすると、暴言を吐いた顔の鼻を剃った。冷子の身体に激痛がはしり、カミソリを手から落しそうになった。けれど気を振りしぼり、冷子は罰を与えつづけた。
 みるみるうちに冷子の肚は切り傷だらけになり、ついに顔は沈黙した。冷子は、ほっとすると手から力がぬけた。手どころか全身の力もはいらず、風呂場のタイルの上に尻餅をついた。
 長い付合いだったのに……と冷子は自分の体から消えた存在感に、自殺したような虚無を覚えて、涙がこぼれるのを感じた。
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sadistictorism

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 肥大化した自意識で糖尿病にかかっちまえ!

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