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母と子


 道の端までいったところにある小さな廃屋は、ギャラリーを兼ねていて、そこに誘いこまれるように入ると、中の白い壁に十字の磔台がもたせてあり、一人の少女が掛けられていた。
 ぼくは、救わねば、と思い、その少女を壁にしばる荒縄を解きにかかり、いくら指に力をいれても綻びすらできず、鞄からペンケースを取り出すと、そこからカッターナイフを手にして少女を縛る縄を裂いた。勢いがあまって、カッターの刃は少女の皮膚にまで食いこんだ。赤い血が滴った。床にそれは黒い点々を残した。少女は表情を変えず、ぼくのことを見つめていた。死体なのかもしれない。そんなことを思ったところで、

    パチパチ

 と拍手がした。
 振り返ると、磔りつけにされた少女と同じ顔の少女が立っていて、儀礼的に手を叩いていた。
 その少女はぼくの傍までやってくると、ぼくの手にしているカッターナイフを奪い、それを目の前の磔りつけの少女に向かって突きだした。ちょうど下腹部のやわらかな部分を刺しこみ、皮でも剥くみたいに引きおろした。黄色い脂肪と血があふれ、裂けた腸からアンモニアの臭気のする排泄物がこぼれた。そのまま少女は、鞄の中身をあさるみたいに内蔵をこねくりまわし、一個の器官を取り出して、
「これは女の子の大事な場所」
 といって、その赤い筋肉でできた皮の中身をぼくに見せた。ぼくはその暗い虚を覗きこむと、自分がそのなかに引きこまれていくのを感じた。顔から目がこぼれ、舌が抜けて落ちていく。そのまま自分の身体が分解されながら、その小さな、少女のいう「女の子の大事な場所」にぼくは収められていった。
 鼓動を聞いた、どくり、どくり、と力強い鼓動が子守唄のように聞こえる。潮の音も聞こえる。安らかな、誰にも邪魔されない、誰にも傷つけられない。眠気に包みこまれ、ぼくはまぶたを閉じた。世界中に自分が広がっていく、そんな幸福感を覚えて、意識を手放した。
 次に目を覚ますと、ぼくは、ギャラリーの端にあった椅子に座っていた。眠りこんでいた。壁に目をやると、そこには少女の姿はなく、かわりに一枚の絵がかけてあった。赤ん坊を抱いた母親の絵だった。キリスト教的な聖母の姿ではなく、どこまでも優しい笑みをうかべた幸福におぼれている母親の姿だ。
 息をついた。
 あれは夢だったのだ、そうして、その夢の凄惨さは目の前の母子像から遠くかけはなれている。ぼくは椅子から立ちあがり、ギャラリーを出ようとした。
 受付のところに少女がいて、彼女は手持ち無沙汰にしていて、手のなかでカッターナイフを遊ばせていた。それは、ぼくの持っているカッターナイフによく似ていた。少女は、ぼくと目が合うと微笑をうかべた。ギャラリーにあった絵のなかで母親が浮かべるのとは、まったく逆の笑みだった。
 ぼくは薄気味悪いものを感じながら、ギャラリーをあとにした。
 帰り道の途中で鞄からペンケースを取り出し、中身を見ずにゴミ箱に捨てた。
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sadistictorism

使用者:sadistictorism
 
 肥大化した自意識で糖尿病にかかっちまえ!

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