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ウエヌスの石像

 
 扨、ウエヌスの石像は生きているやうだ。虎男はさう思つた。
 大学の図書館の中庭にある石像で、虎男が好んで座る閲覧席からよく見えた。苔むしたやうな、元の石質が黒ずんだのにかかつた緑。乳房の質感、唇の質感。研究に行き詰まつて、ものを言わぬウエヌスの石像と目が合うと、ゾクリと尾てい骨に電撃が走つたやうな感じがする。
 虎男は医学を学んでゐた。
 友人に仕切りにリラダンの『未来のイヴ』を薦められ、読んだばかり。ウエヌスの石像は、エジソン博士のハダリーのやうだつた。あの空虚な石の詰まつたウエヌスに、虎男は、息をするための肺、肌を柔らかく温かくするための心臓を組みいれたいといふ衝動にかられる。それで、夜。虎男は図書館の中庭に忍びこむとウエヌスの石像を盗み出した。下宿に運びこんで、ほんたうの女のやうに布団のうえに寝かせた。
 ウエヌスの肌は冷たく、ドクダミの臭いが染みてゐた。
 虎男は、おそるおそるとノミを手にしてウエヌスの胸に一撃を加えた。完璧な恋人の胸は砕かれた。その内部は石が詰まつてゐる。虎男は、その石を全て肉に交換する計画を立てた。
 さうだから、虎男の下宿の押入はおびただしい数の人骨であふれ、邪宗の祠のやうになつた。ウエヌスは内臓と皮の継ぎ接ぎ、虎男が調薬した防腐剤で守られた。石像のときの魅力をそのままにウエヌスは、いまにも目を覚ましさうな気配で横になつてゐる。虎男は、眠つたままのウエヌスに何度も口づける。一向にウエヌスは目を覚まさない。
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 肥大化した自意識で糖尿病にかかっちまえ!

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