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がらくた置き場

 
 見た目の美しい少女、暗く沈んだ顔で、それがいつさうに芸術めいた美しさをかもしております。その少女の手をしつかりと握り、歩いてゐるところでございます。
 このお屋敷には、地下室がございます。
 そこには様々なものが放置されておりました、といふのも、われらの主人は非常に飽きつぽい性質の方で、一つのことに一日二日集中されますと、まう二度とそれに見向きされないのでございます。
 この前はボトルシツプにご執心されまして、寝食わすれて緻密な作業に没頭されましたが、完成するか否か、その間際になつて精根つきはてお休みになられ、翌日になりますと、ただ乱暴に作りかけのボトルシツプを投げ捨てられたのでございます。
 小さな、それに無機物でございましたら地下室に適当に放りこんでおけばよいのでございますが、さうではないと大変処分に困るのでございます。主人が町歩きをしたとき、たまたま目に入つた飼犬や飼猫、もしくはもつと珍しい生き物などに執着されましたら、お金と地位にものを言わせて、簒奪といつていいやうに持ち帰つてくるのでございます。たうぜん、二三日すれば飽きて、しかもそれを頂戴してきたことすら忘れる始末。主人はなかなかの吝嗇家で、余分な食い扶持はよしとしませんから、愛玩動物はといつたものは知らずのうちに一匹いつぴき姿を見せなくなるのでございます。地下室とは便利なものでせう。
 いまちようど、私は少女の手を引きながら、地下室への階段を下つてゐるところでございます。地下への入り口で、少女は少し躊躇されましたが、私は大丈夫だと言い聞かせました。みんなここに行くのだよ、と、さういふ決まりなのだ、と。すると少女は諦めたやうな、幼さに似あわない諦観の微笑を浮かべました。
 この少女にだういふ訳があるのか、私の知るところではございません。主人が昨夜の商売筋の夜会から連れ帰つてきた少女でございます。主人の弁を借りれば、義憤に駆られたのだとか。夜会で何が通例になつておりますのか、私には想像できかねますが、かう少女の見事な均整の顔、珍しい色の髪や目、それから年不相応な蔭のある表情などを見ますと、自然とろくでもないことに考えがいつてしまいがちでございます。
 主人は例にもれず、明けた日の朝に、少女がなついた猫のやうに近づいてきますと、お前など知らない、と言つてのけて、ここには余分を養うやうな余裕はないのだ、と、少女に冷たく言い放つたのでございます。そのときの少女の表情は、おそらく私は忘れられないでせう。とはいえ、私の仕事がそれで変わるわけも加減されるわけもないのでございます。
 地下室の扉をひらき、少女をなかに入れると、扉を締めました。鍵をかけました。地下室には主人の飽きたものがすべてしまわれてゐるのでございます。
 例外などございません。

西日

 
 たたみ、灰皿、ふとん。汗と煙草との臭いが染みてゐる、体液の生臭さが残留してゐる。彼は朝に帰つていつた。日曜日。根つからの商売人の彼には、意味のある曜日ではないが、世間は一斉に休みで、外泊しても咎められるやうな日ではない。
 寝不足の目をこすりながら、ゆつくりとふとんから出て、窓をあけた。冬の冷たい風がふきこみ、こもつた空気が入れかわる。
 これから湯を浴びて、買い物を済ましたら、店にでる時間だらう。日曜の夜は客足は少ないが、仕事であることには変わりがない。めんだうだ、と思ふ。このまま寝てゐたい、と思ふ。彼からもらうお金で、それで十分に生活はできる。それは生活ができるといふだけで、彼がゐなくなつたらご破算。さうなる前に貯められるだけ、貯めないといけない。鏡の前にいき、顔を映す。目元にかすかな隈がある。肌に水気がある。それが、化粧で隠さないといけないほどの隈になつてしまふまで、一夜の遊びで肌がかさついてしまふやうになるまで、さう時間はかからない。
 上京してまう二年。それまでのあいだに色んなことがあつた。かういふ生活は予想していなかつた。でもこの処、これで安定してしまつてゐる。夜はたらき、昼に眠る。
 ふとんを窓辺に干して、灰皿を洗ふ。それから銭湯にいき、その帰りにお酒や摘みになるやうなものを買つた。家に戻るとふとんをたたんで、服を着がえる。化粧をする。窓の外は明るい、太陽は低い位置にある。あと少しで夕方、あつといふまに夜。お酒の臭いが喉からせりあがり、鼻腔をさわる。幻のアルコールの感触に眉をひそめて、家をでた。
 店まではバスを使ふ。帰りはタクシーを使ふか、お客といつしよに待合か。今日はどちらだらうか、日曜日だからタクシーで帰るかもしれない。それとも歩いて戻るのもいいかもしれない。途方に暮れてゐたころのやうに、真夜中に歩くのも好いかもしれない。
 バス停は、ちようどバスが来たところで、私は途中から駆け足になつて、バスに飛びのつた。
 揺れながら走るバスの窓をながれていく景色は、昨日と何も変らない。

ウエヌスの石像

 
 扨、ウエヌスの石像は生きているやうだ。虎男はさう思つた。
 大学の図書館の中庭にある石像で、虎男が好んで座る閲覧席からよく見えた。苔むしたやうな、元の石質が黒ずんだのにかかつた緑。乳房の質感、唇の質感。研究に行き詰まつて、ものを言わぬウエヌスの石像と目が合うと、ゾクリと尾てい骨に電撃が走つたやうな感じがする。
 虎男は医学を学んでゐた。
 友人に仕切りにリラダンの『未来のイヴ』を薦められ、読んだばかり。ウエヌスの石像は、エジソン博士のハダリーのやうだつた。あの空虚な石の詰まつたウエヌスに、虎男は、息をするための肺、肌を柔らかく温かくするための心臓を組みいれたいといふ衝動にかられる。それで、夜。虎男は図書館の中庭に忍びこむとウエヌスの石像を盗み出した。下宿に運びこんで、ほんたうの女のやうに布団のうえに寝かせた。
 ウエヌスの肌は冷たく、ドクダミの臭いが染みてゐた。
 虎男は、おそるおそるとノミを手にしてウエヌスの胸に一撃を加えた。完璧な恋人の胸は砕かれた。その内部は石が詰まつてゐる。虎男は、その石を全て肉に交換する計画を立てた。
 さうだから、虎男の下宿の押入はおびただしい数の人骨であふれ、邪宗の祠のやうになつた。ウエヌスは内臓と皮の継ぎ接ぎ、虎男が調薬した防腐剤で守られた。石像のときの魅力をそのままにウエヌスは、いまにも目を覚ましさうな気配で横になつてゐる。虎男は、眠つたままのウエヌスに何度も口づける。一向にウエヌスは目を覚まさない。

メイドと煙草

 
 
 メイドさんのエプロンにはわずかに煙草のにおいが染みていて、膝枕をしてもらうたびに父さんのことを思いだした。
 今日もそうだ。
 休日で、予定のない日。お昼ごはんも片づくと、なんだか手持ち無沙汰で、ソファに座ってテレビを見ていた。同じように仕事が終わってすることのなくなったメイドさんが、ぼくの横にきた。なんとなくその膝のうえにぼくは頭をのせた。かすかに煙草のにおいがする。メイドさんは何もいわず、低い声で子守唄のようなメロディを口ずさむ。さすがにそんな歳じゃないんだけど、と、思うけれど、だんだん眠くなってきて、細かいことはどうでもよくなる。
 うとうとしだして、夢なのか現実なのか分からなくなってくる。父さんの亡くなった日、それとメイドさんが家に来た日とが煙草のにおいでつながっていく。胸のざわめく思い出は、眠気のおもたさにぼやけて、遠くに消えていく。ぼくはいつの間にか眠っていた。

 目をさますと、夕暮れどきだった。ぼくはソファに横になっていた。まだ眠気がさらず、頭が重たい。庭に目をやると、メイドさんが外にでていて、煙草を吸っていた。なれた仕草で、一本を吸い終えると、携帯の灰皿にそれを仕舞う。その様子をじっと見ていた。メイドさんは一服を終えると、こちらにふり返った。目があったような、合わないような微妙の間があってから、ぼくはもう一度目を閉じた。メイドさんが、窓をあけて家のなかにあがる気配がする。足音が近づいてきて、遠ざかっていく。
 近くを通ったとき、かすかにだけれど煙草のにおいがした。父さんのことも思いだしたけれど、それよりも煙草を吸って、夕空を見上げていたメイドさんの姿が、強く記憶に刻まれるのを感じた。

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sadistictorism

使用者:sadistictorism
 
 肥大化した自意識で糖尿病にかかっちまえ!

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